CALAMARI CALAMATTE

佐野まいけるの日記

佐渡、こがね丸の上から

仕事を辞めたら毎日でも日記が書けるぞと喜んでいたのに、3週間経った今でも一本も書いていない。そんなものである。あれよあれよいう間に、次の職場も決まってしまった。

休みが終わる前に何か一つまとまったことをしたくて、佐渡行きを決意した。小木港へ向かう「こがね丸」の中でこれを書いている。この後も予定が詰まっているし、何か書くなら今くらしいかない。

ニ等船室のなかでは一等良い(と思う)海と甲板が見えるソファ席に座れた。そこで太宰治が「佐渡」という短編を書いていたことを急に思い出し、Kindleで読みはじめた。

薄暗い話だった。死ぬほど淋しいところだと聞いて佐渡を目指し、まだ着きもしないうちに我に返って何しに佐渡なんぞに行くのだろうなどとのたまう太宰と今の私は対照的だ。

私は明確な目的があって佐渡を目指している。一つは友人や最近ご縁ができた人に挨拶すること、もう一つは佐渡のイカにまつわるあれこれを見て周るためである。行ったことはないけれど、佐渡は淋しいところなんかじゃないと確信している。

あっさり短編を読み終わると、甲板に出ていたたくさんの人々は1人残らずいなくなっていた。こんなに気持ちよく晴れているのに不思議だなと思ったが、自分が出てみてよくわかった。風が強すぎる。そして西陽も強すぎる。

更にはなんだか酔ってきた。船という乗り物の不安定さをすっかり忘れて、乗る前に酒を飲んできてしまった。二重に酔っている。

一等良いと思っていた席も、差し込む西陽のせいで暑く眩しくなってきた。生あくびが異様に出る。「佐渡」の中で、太宰は散々憂鬱だと言いながらも船酔いはしていなかった。なんだか悔しい。陽射しから逃げて下へ降りると、私と同じくうねりに負けた人々が呻いていた。

これ以上画面を見ていると不味そうなので、これでおしまいにしよう。島が見えた、という声が聞こえる。

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