CALAMARI CALAMATTE

佐野まいけるの日記

2023年振り返り_イカとかそれ以外とか

普段こういうまとめを書かないタイプだが、今年はあまりにも記憶がないので写真から頑張って振り返ってみた。思っていたよりイカ活動をしていたが精神面では低空飛行であった。

 

1月

イカ水族館初め。友人の野草観察会にアシスタントとして参加して、南インド料理をご馳走になった。人生ベストのワダに出会う。家でゆっくりする日が多かった。前年か始めた英語学習は毎日同じ2時間欠かさなかった。

 

2月

この月が一番気力体力が充実していたかもしれない。毎日欠かさず英語学習し、TVの自宅ロケ、スタジオ撮影もこなした。しかしファクトチェックや資料の提供などあまりにコストがかかったので当分出演はしないと思う。友人の結婚祝い会でなぜかイカの解剖・解説をやらせてもらったりして楽しい月だった。

 

3月

アオリイカに関する講演を聞きに名古屋港水族館へ。イカの展示はなかったが、貴重な話を聞けた。名古屋のでかい歩道橋を見られて満足。銚子旅行で人生ベストはんぺんに出会う。ホタルイカ掬いに富山へ行ったが、体力のなさを実感した。やりたいことが思うように出来ない。私より年上のてんおじやざざむしさんの方が圧倒的元気。また生きたホタルイカとお二人に会えたのが嬉しかった。仕事では焦りを感じ始める。

 

4月

草の友人が捕まえて食べる友人に取材されることになり、彼女にまつわる人々が集まって彼女について語る会に参加した。幸せな生前葬という感じで大変良かったのだが、私はおそらく死んでも葬式を上げてくれる人もいないし生前葬に呼べるひとも殆どいないなとやや暗い気持ちにもなった。イカ画家・宮内さんの展覧会を見に霧島へ。一つの絵に一目惚れした。人生ベストおでんに出会う。

 

5月

Twitterで知り合ったアラン・リックマンファンと集まってアラン出演作品を観る会に参加するなど少し冒険した。皆公式の杖を持ってくるというので、私は近所て拾った枝を削って自作の杖を作った。ハリーポッターの舞台も観に行った。グリーンカーテン用のパッションフルーツを植えたが育ちが悪く心配していた。

 

6月

Twitterで知り合った先生からドスイカを提供していただき、解剖した。人生ベスト平衡石に出会う。赤いかフェアをやっていると聞きつけ下田へ。フェアは全然盛り上がっていなかったが、素晴らしい居酒屋に出会えた。人生ベスト金目鯛の干物に出会う。この頃から英語学習が途絶えがちに。そろそろパッションフルーツの花が咲かないとおかしい頃だがまったく咲かず。

 

7月

イカの解剖編みぐるみを習う。自分以外の趣味人でこんなにイカの内臓を詳しく観察して、しかもそれを作品にした人がいることが嬉しくてたまらなかった。パッションフルーツの花が2つだけ咲く。りんごの町、弘前へ。人生ベストのイカワタ醤油漬けと出会う。近所の中華料理店で人生ベストの麻婆豆腐と唯一無二の皮蛋ピーマンに出会う。

 

8月

一年以上会っていなかった友人とブッフェからのカラオケというごく普通の遊びをして、なんとなく世間と馴染めた気がした。B'zのLiveで狂う。本番用のイカ解剖ぬいぐるみの制作を開始した。年初から仕事に関して気持ちが腐り気味であったが、それが決定的になってゆく。1日5回くらいパッションフルーツの面倒を見る。この辺りから急速に太り出した。

 

9月

パッションフルーツの実が落ちた。完全に仕事と会社への愛がなくなる。恩だけはある状態。退職の気持ちを伝え、すんなり辞めることになった。友人に桜新町のねぶた祭りに誘ってもらい、跳ね狂う。気が楽になり、イカの平衡石の長編記事を書いたり、光るイモムシを探しに行ったり、暗渠散歩に参加したりした。

 

10月

静岡旅行。人生ベストソフトクリームに再会。2本食べた。なんでも次があると思うなよという自分への戒め。イカタコ研究会でイカ解剖ぬいぐるみとコウイカ神経うちわをイカタコ研究者の方々に見てもらい、これ以上ないほど自尊心が高まった。本当はこういうものを作ったり物を書いたりそれだけして暮らしていたい。そして何よりも佐渡旅。人生を変えてしまう出会いがあったと思う。大袈裟だが人生の使命めいたものを感じた。イカの島だから早く行きたいと願っていたが、これがベストなタイミングだった。

 

11月

新しい会社での勤務開始。暗号のような社内略語が観測されているだけでも40以上あり、慄く。宮内さんの個展が銀座あり、霧島での展示から加筆したという絵に惚れ直して購入した。いか連合が初めて一堂に会したのもこの夜だった。香美町でダイオウイカの公開解剖が行われる日、半年前から決まっていた箱根富士屋ホテルへ宿泊した。人生ベストカクテルと出会う。

 

12月

体重の増加が止まらない。明らかにストレスであるが、なぜか資格試験に申し込んでしまいなんとか合格した。特殊趣味忘年会に参加したところ、大変居心地が良かった。できればそちら方面で長く付き合える友達を増やしたい。

 

転職は完全に想定外であった。して良かったが、給与に比例して求められるところが高い位置にある。今年は文字のインプットとアウトプットが極端に少なく、書けなくなってきている。技術書以外のものを読みたい。

 

20231214-1217:いま京都にいます、特殊趣味者

12/14(木)

美容室へ行くため駅に向かっていると、近所の寺で紅葉のライトアップをしていた。外から写真を撮ろうとしたら、「是非、中へ」とビブスをつけた案内の人(?)に誘われたので、言われるがまま中で観覧した。「写真をたくさん撮って、『いま京都にいます』って誰かにメールしてみてください」とさっきの人がニコニコしながら言うので、素直に「そうします」と答えた。お寺の人なんだろうか。

「いま、京都にいます」

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美容室では、来年髪を染めたい旨を話し、今年初めての「良いお年を」を贈りあった。帰りにジムに寄ろうと着替えを持って出たのに、道すがらの飲み屋の誘惑に勝てず入店。流石に1週間と開けずに訪問したのでマスターは覚えていてくれた。先日頼んだ青唐辛子飯の辛さについて心配してくれて「もう少し(辛いって)言えばよかったんだけど若いカップルのお邪魔してはいけないと思って」と言う。「もう結婚10年なんですよ」と言うと驚いて笑っていた。また来週くらいにいけば覚えてもらえるだろうか、他の客たちとその場限りの盛り上がりをしてサラッと飲んだ。

結局その後ジムにも行って、少しだけジョギングして帰った。

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12/15(金)

クラスのみんなに嫌われており、半笑いでバカにされて独りぼっちの夢をみた。そんな過去はないはずだ。独りぼっちではあったかも知れないが。

昨日夫が半額の牡蠣をたくさん買ってきてくれたので、2/3は私がオイル漬けにし、1/3は夫が昼食用の牡蠣アラビアータを作ってくれた。ベーコンの塩気と牡蠣のコクのバランスが良い。

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夜は特殊趣味忘年会だった。昆虫食や草、特殊食材マニアが多く、イカは少し異色だったようで声をかけてもらえてありがたい。セミがピンチョスになり蛇が焼肉になる中、面白い話をたくさん聞いたがそれ以上は言えない。本会は一部婚活会も兼ねているため、誰が参加したのかは秘匿の義務があるのだ。イカの解剖が趣味という話をしても誰にも笑われなかったのは嬉しかった。特殊趣味者は他の特殊趣味者に理解がある。Twitterでは理解ある人々に囲まれているので辛い思いをすることはないが、リアルでも安心して話せる場を設けていただいたのは本当にありがたい。もう少し人数を絞って密に会話する会なんかも出来たら楽しそうだ。柄にもなく二次会にも参加し、学生のようにガブガブ飲んだけれども大人なので終電前に帰った。

12/16(土)

意外とアッサリ目覚めた。眠りは浅く、カード利用額が25万を超えて口座引き落としができない夢を見た。

通院。予約制度のない病院で非常に待たされるので、いつも通りミスドに退避した。参考書を開くが、深酒の翌日特有の憂鬱がやって来てうまく読めない。どんなに楽しく飲んでも、一定量を超えると深夜から早朝に精神的ダメージを受ける。長居になりそうだったので、ポンデリングのあとに追加でドリンクとホットドックを頼んだ。ミスドのホットドッグは、パンがフランスパンみたいな硬めのやつで、ケチャップではなく濃いめのトマトソースなのでとても美味しい。マスタードが入っていないのも私にとってはポイントが高い。診察は特に異常ということでいつも通り薬をもらって終わり。

帰宅してから夕方までずっと寝た。

12/17(日)

本当は楽しそうな会に誘われていたのに、試験勉強が終わらないので泣く泣く辞退した。朝から夕方まで試験勉強をし、夫と一緒に銭湯へ。先週と違い体調が良いのでサウナも気持ちが良い。驚いたことに10歳くらいの子が1人でサウナに入っていた。君にはまだ早い快楽だよ。普通に体の小さい子供の熱中症を心配したが、水風呂にダイブして元気いっぱい出て行った。

近所の四川料理店で酒は飲まずに回鍋肉と麻婆豆腐でごはんにした。美味いのなんの。褒美を得たので、帰ってからまた試験勉強をしている。全てが暗記で面倒臭い。計算問題とかにしてほしい。……来週は日記を書けないかもしれない。

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20231207-1213:「イカやってる」、遅刻する人

BREWBOOKSさんの『週間店子日記』に影響を受けて、短い日記を書いてみたくなったのでやってみる。

 

12/7(木)

朝起きるのが始業ぎりぎりになったせいで頭から抜け落ちていたが、夫の誕生日だった。夫は「誕生日おめでとう!!!!」と言いながら少し遅れて書斎へ入ってきた。自ら己を祝っていくスタイル、強い。私からも存分に言葉で祝い、撫でまわしておいた。それらしいお祝いは週末にする。

12/8(金)

Twitterで皆がボーナスをもらっている様子を眺める。転職したてだから流石にまだ出ない。かなりシビアな実力主義の会社なので、評価が上がらなければ一生同じ給与・賞与である、というか下がる場合もある。下がらないくらいにヌルっと仕事をしたいと思うが、そんな丁度よいことができるだろうか。なんにせよ、もう転職はしたくない。

12/9(土)

夫の誕生祝いDAYだった。夕方から出かける予定だったので、それまでに資格試験の勉強を済ませた。更に気分が乗ったので『いか生活』取扱店の紹介ブログを更新した。新刊が出たわけでもないのにここ最近取り扱ってくださるところがグッと増え、今は9店舗ある。ありがたいことだ。新刊を創る余裕は全然ないが気持ちだけはある。
夕方はお気に入りのパフェ屋で誕生ケーキならぬ誕生パフェを食べ、馴染みの小さなビストロで晩餐をした。シェフに「佐野さん、まだイカやってるんですか」と言われて「まだやってますよ!」と即答したが、「イカやってる」って何だろう。胃が縮んだのか、控えめのつもりで頼んだ食事がかなり苦しく、家でアザラシと化した。

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12/10(日)

昨夜の食事の消化に朝までかかった。体調が悪い。やや無理をして資格試験の勉強をする。昼からやっている近所の銭湯に夫と向かったが、サウナに入るのは体調的にマズそうだ。ぬるい炭酸泉にゆっくりと浸かっていたが、立ち上がるときにサッと血の気が引き、墓場からよみがえったゾンビのような体勢のまま動けなくなった。体感1.5分くらいそのままじっとしてから目を開けると、おばあさんが怪訝な顔でこちらを見ていた。ごめんなさい。

そのあと近所の飲み屋でサクッと呑んでそのままゴロゴロした。毎度マスターや常連と会話するのだが、顔を覚えられないギリギリのペースで通っている。

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12/11(月)

朝から仕事をサボってMicrosoftの講習を受けるが、脳がとろけそうに眠い。眠すぎてこの日は記憶がない。資格試験の勉強はした。

12/12(火)

同じく朝からMicrosoftの講習を受けるが、昨日より更に眠い。ここ1か月ほど異様に眠いが輪をかけて眠い。決して睡眠不足なわけではないから恐らくはストレスだろうと思う。午前中に楽しみにしていた菓子セットが届き、それだけを拠り所にして仕事をした。

夜は少し回復したので酒を飲み、古畑任三郎を2本見た。2本目の「殺人特急」が好みである。古畑任三郎は好きすぎてもう3週はしているのだが、3週目がずいぶん前だったので忘れていたところも多く、楽しめた。すべて覚えていても楽しめたと思うが。

寝る前「和牛」解散のニュースを夫から教えてもらった。原因は水田の遅刻だという。「毎回毎回遅刻をするのはね、相手を大事に思っていないと思われても仕方ないんだよ」と夫がニコニコしながら言う。それ俺が前に言ったことだよ。このように先手を打つのが彼の得意技である。夫は昔から遅刻癖がひどく、一緒に出掛けるようになった今でも予定の時間に家を出られることは少ない。しかし夫の場合、それは相手を甘く見ているというよりは(見てはいるが)、生来の性質によるところが大きいのではないかと近頃は思う。マルチタスク時に優先順位を決めるのが非常に苦手なようだ。それにしてはよくやっていると思う。

12/13(水)

今日も今日とて眠いけれども、昨日よりは幾分マシなようだ。講習のために昨日一昨日とMTGをスキップしたけれど、やはり一日一度はしっかりと話す場があったほうが好きだ。昼は焼きキノコとイカのアラビアータを食べた。だんだん、昨日参加を決めた「特殊趣味忘年会」が楽しみになってくる。たまには付き合う人々を増やしてみてもいいだろう。軽食として昆虫も出るというから楽しみだ。

 

書いてみて思ったが、この形式、あまり向いてないような気もする。でもまたやるかも。

佐渡、こがね丸の上から

仕事を辞めたら毎日でも日記が書けるぞと喜んでいたのに、3週間経った今でも一本も書いていない。そんなものである。あれよあれよいう間に、次の職場も決まってしまった。

休みが終わる前に何か一つまとまったことをしたくて、佐渡行きを決意した。小木港へ向かう「こがね丸」の中でこれを書いている。この後も予定が詰まっているし、何か書くなら今くらしいかない。

ニ等船室のなかでは一等良い(と思う)海と甲板が見えるソファ席に座れた。そこで太宰治が「佐渡」という短編を書いていたことを急に思い出し、Kindleで読みはじめた。

薄暗い話だった。死ぬほど淋しいところだと聞いて佐渡を目指し、まだ着きもしないうちに我に返って何しに佐渡なんぞに行くのだろうなどとのたまう太宰と今の私は対照的だ。

私は明確な目的があって佐渡を目指している。一つは友人や最近ご縁ができた人に挨拶すること、もう一つは佐渡のイカにまつわるあれこれを見て周るためである。行ったことはないけれど、佐渡は淋しいところなんかじゃないと確信している。

あっさり短編を読み終わると、甲板に出ていたたくさんの人々は1人残らずいなくなっていた。こんなに気持ちよく晴れているのに不思議だなと思ったが、自分が出てみてよくわかった。風が強すぎる。そして西陽も強すぎる。

更にはなんだか酔ってきた。船という乗り物の不安定さをすっかり忘れて、乗る前に酒を飲んできてしまった。二重に酔っている。

一等良いと思っていた席も、差し込む西陽のせいで暑く眩しくなってきた。生あくびが異様に出る。「佐渡」の中で、太宰は散々憂鬱だと言いながらも船酔いはしていなかった。なんだか悔しい。陽射しから逃げて下へ降りると、私と同じくうねりに負けた人々が呻いていた。

これ以上画面を見ていると不味そうなので、これでおしまいにしよう。島が見えた、という声が聞こえる。

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日記:たわむ何か、ちょっといいスーパー

嫌な夢を見てそのままスゥ〜と暗いうちに目覚めてしまったので、Kindleで本を読みながら陽が昇るのを待った。

いつもより1時間ほどはやく起き上がって、パッションフルーツに水を遣る。なんて快適! いつももっと陽射しが強くなってからベランダに出るので、ほんの10分で滴るほど汗が出るのだが、滲む程度で澄んだ。いつももっと早く起きよう。

夕方、嫌な連絡がきて嫌な気持ちになった。夢で予感した通りである。なんだか惨めになり、気分を高めるためにずっと我慢していたコウイカのイカチチ(包卵腺)を通販で買った。冷凍庫の容量が逼迫しているし、送料だって馬鹿にならない。だがもういい。あらゆる食べ方を試して、イカチチマスターに俺はなる!

夜は隣駅まで散歩した。ヤケ酒ならぬヤケミスドをするためである。ポンデリングの素のやつ(シュガーがかかっていないやつ)があったのでそれにした。ポンデリングは私にとってはモチモチという食感こそが本質なので、甘さはより控えめな方が嬉しい。

レジ待ち中に聞こえてきた会話が気になる。電話をしているようだ。

「あ、そうですはいイナバノソウコ的な感じです」

イナバの倉庫? 多分イナバの"物置"だ。100人乗っても大丈夫的な感じだろうか。100人乗っても大丈夫的な何かってなんだろう。

「えーそんなんじゃたわむよってナカハラさんに言っといてください笑」

それはたわむらしい。箱なのかしら。板かしら。続きは聞けなかった。

帰りに"ちょっといいスーパー"があるのを発見して嬉しくなり、カツオの柵とホヤを買って帰った。戻り鰹なのにあまり脂は乗っていなかったが、それはそれで良い。ホヤはなんだかスッキリした味で肉厚で大変美味しかったので、旬のうちにまた買おう。忘れていたミスドはデザートとして胃に詰め込んだ。あんまり甘くないやつにしておいて助かった。

翌日のB'zのライブ用のコーディネートを考えて、寝た。嫌な夢は見なかった。

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日記:時計台、見えなくなっちゃった

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昨夜は人生で最高の花火大会だった。こんな経験は二度とできないだろう。

花火は好きだが暑さや人混みに弱いので出かけるのは億劫、そのくせ動画で見るのはなんだか味気ない、というわがままな人間なのだが、今年はそのわがままを叶える素晴らしいチャンスが訪れた。

絶対に混雑しない穴場スポットを見つけたのだ。近所の中華料理店の屋上である。最近憑りつかれたように通っている店なのだが、店の屋上を花火観覧用に有償で開放する(飲み放題と軽食付き)というお知らせを発見して、即予約したのだった。

しかし店側としても初めての試みだそうで情報が少なく、軽食は何が出るのか、何が飲み放題なのか、テーブルや椅子はあるのかなど一切が謎。5千円弱という安くはない料金だが、混雑を避けて花火を見られることを考えると出るものが発泡酒と枝豆と乾きものくらいだったとしても十分価値がある、はずだ。好きな店の屋上に登れるというだけでもなんだかワクワクするし。

予約してから2週間、この日を楽しみにしてきた。私は日中所用があったので会社を休み、夫は午後半休を取って、もう準備万端である。浴衣を着ようか少し迷ったけれど、階段が急という事前情報があったのやめた(階段はマジで急だった。おばあちゃんちの階段より急。外階段だし)。

時間ぴったりに着くと、屋上の一角にはテントが設営され、子供1人くらい入れそうな巨大なクーラーボックス3つに詰め込まれた酒類と、芳しい香りの四川料理の数々、乾きものなどがテーブルにずらりと並んでいた。最高だ。

テントの奥には店で使っているしっかりとした椅子が数脚ずつセットで並べられ、足元には料理を置ける台。そしてそれらの椅子はすべて同じ方向を向いている。この方角に花火があがるのだろう。この空いっぱいに打ち上がる花火を想像する。

「本日はありがとうございます。初めてのことなので不備があるかもしれませんが、どうぞゆっくり花火を楽しんでいってください。料理もまだ出しますので、どんどん召し上がってください! 」という店主から挨拶に、自然と拍手が湧く。誰もが4年ぶりの花火を楽しみにしている様子だ。我々は3年前に越してきたのでこれが初めてなのだが、再開を心待ちにしていた人も多いのだろう。

花火が打ちあがるまで1時間ほどあったので、食いしん坊の我々はそそくさとテントへGO。名物の葉にんにく入り四川麻婆豆腐、エビチリならぬ軟体チリ(タコ・ホタテ・ムール貝が入っている)、八角のきいたチャーシュー、骨付き鳥の醤油煮、パリパリのあんかけ焼きそば、しっとりなのにパラパラなチャーハン。次々と追加される料理はすべてが熱々で、よく冷えた紹興酒まで用意があったし他の酒も豊富であった。

発泡酒と枝豆でもしょうがない、なんて自分で自分に強がってみせていたのだが、本当はこれが食べたかったのである。どんどん料理が追加されるので、安心してお腹いっぱい食べることができた。夢のようだ。

あとはゆっくり飲みながら花火を眺めるだけである。「花火をiphoneで綺麗に撮る方法」は事前に調べておいたので、画角を確認したりナイトモードで試し撮りをしたりしてテンションは最高潮。いよいよ予定時刻だ。

しかし花火があがる様子がない。でもまあ花火大会って得てして開始が遅れるものですよねと思っていたらドーン!と大きな音がした。「おー始まった!! 」と歓声が上がる。と同時に、何かがおかしいことに気付く。音しか聞こえないのである。光の方が早いのだから、音の前に花火が見えていなければおかしい。しかし、正面の空は先ほどと変わらず昏い。ドン、ドン、と音は続けど、一向に花火の姿は見えず。すると「あのマンションの裏だ!!」と端の方の誰かが叫ぶのが聞こえた。

あの屋上のどよめきを私は生涯忘れないであろう。ただ笑う者、呆然として固まる者、待てばいつか見えると信じている者、煙は見えるね!と微かな喜びを掬いあげる者、屋上の端ぎりぎりまで身を乗り出して花火の欠片を目に焼き付ける者。

我々は気付くべきであった。この店が開店したのは3年前。つまり我々夫婦と同じく、店主はこの花火大会をこの場所で一度も経験していないことを。花火が見えるかは賭けだったのだ。あと15度、いや10度マンションの位置がずれれば完璧な観覧席のはずだった。「不備があるかも」の不備のなかに「花火が見えない」が含まれているとは店主自身も想像しなかったことだろう。

それにしても面白すぎる。この店で最初で最後の花火観覧会に私たちは参加したのだ。いわば稲葉浩志の声が出ないB’zのLive-Gymみたいなものである(夫談)。開催者側の気持ちを慮るとやりきれないが、参加者の間では後の語り草となるレア体験と考えるとむしろお得である。

さてこれからが盛り上がりどころだぞと思っていると、花火が始まる直前にやってきた二人連れが音もなく去って行った。その後も一組減り、二組減り、あっという間に我々ともう一組だけになった。本当にみな花火目的だったのだ。まだ料理はたくさんあるのに。下の方から店主の謝る声と、いいですよ大丈夫ですよという声が聞こえてくる。怒ったり文句を言う人がいなかっただけでもよかった。

残された我々を含めた4人はというと、仲良く並んでyoutubeを観ていた。夫が公式の配信を見つけたのだ。ドーン……という腹に響く音を聞きながら、10秒遅れの花火を小さな画面で眺める。これぞ我々らしい夏である。

フィナーレと共に、これ以上ないほど悲しそうな顔の店主が屋上へ上がってきて我々に封筒を手渡した。一部返金ということらしい。何度も丁重にお断りしたが、結局最後には受け取った。私が店主だったら、受け取られないほうが多分辛い。

後には、でかい椅子20脚と、ゾウ1頭くらいは酔い潰せる量の酒と、美味しそうな料理8人前くらいが残った。あの急な階段をこの椅子を持って上ったのか。みんなの喜ぶ顔を思い浮かべながら……。終わってしまうと主催者側のしんどさがこちらまで染みてくる。しかし、ふんわりと片づけを手伝って余った料理と酒をお土産にいただいて帰り道を歩いていると、また急に面白さがこみあげてきた。もう一度youtubeの花火配信を大画面で流してそれを肴にもらってきた酒を飲もうと思っていたら、夫がぼそりとこう言った。「時計台、見えなくなっちゃった」

なんのことかわからずにぽかんとしていると、「キムタクの、ほら、古畑の」と言われピンときた。あれね。

ドラマ「古畑任三郎」で、キムタク扮する林功夫という犯人が観覧車のゴンドラを爆破しようとする回があるのだが、その動機をキムタクが告白するときのセリフが「邪魔なんだよあの観覧車。あれのおかげで、時計台、見えなくなっちゃった」なのである。

確かに私が中華料理屋の店主だったら、あのマンションを爆破したくなったかもしれない。「あれのおかげで花火、見えなくなっちゃった」

youtubeで花火を見るのはやめて、自前の「古畑任三郎 COMPLETE Blu-ray BOX」から当該エピソード「赤か、青か」を観た。この回は肖像権の問題で動画配信サービスでは見られないのだが、円盤にはバッチリ収録されている。久しぶりに見た古畑任三郎はやはり面白くて、続けて別のエピソードも観てしまった。

夫も気に入ったようだから、明日から少しずつ二人で観ることにしよう。当分はキムタクの顔を見ると、見てもいない花火を思い出すことなりそうだ。

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だいたい1か月日記:だから何なんだ

最近どうも鬱々としていていけない。

TwitterのTLを眺めていても、ツイートに対して「だから何なんだ」としか思えないのだ。これは異常である。特に古のツイッタラーからすれば、ツイートとはまさに「だから何なんだ」を垂れ流すことなのだから。フォロイーの「だから何なんだ」という内容のツイートを読んでは、よかったねぇ、悲しいね、美味しそう、すごい、クソワロタなどの気持ちを込めつつ「いいね」をするのが、私の日課であり楽しみのはずである。それが急にしらけ切ってしまい、誰の何を読んでも「だから何なんだ」以上の感想がなくなってしまった。フォロイーのツイート内容が変わったわけではないから、明らかにこちら側に異常が起きている。

とりあえず一旦Twitterをやめたのだが、放って置いたらいつのまにかTwitterはXになっていた。変態の瞬間を見逃してしまった。「俺のいない間にイローンが好き勝手やってくれたようだな。だが安心しろ。俺が戻ったからにはもう奴の好きにはさせない」とかなんとかいう台詞が反射的に頭に浮かんだものの、XになろうがYになろうが当分戻れそうもない今の自分にとっては、どこか遠い国の話のようで現実味がない。それこそ、だから何なんだという話である。

ちょうど同じタイミングでKindle端末を買ったこともあり、Twitterに使っていた時間は代わりに読書に吸い取られている。いや、それどころではない。仕事と飯と家事以外の時間は風呂や布団の中でさえ常にKindleに齧り付きである。Kindleの話はまた別途書こうと思う。

偏頭痛がやってきたのでここでおしまいにする。明日は事情があるので晴れてほしい。晴れろ。