CALAMARI CALAMATTE

佐野まいけるの日記

だいたい10日日記:猫を冷やす

最後の方は猫が死ぬ話なので各自アレしてください。

気の進まない連絡をいくつかしなければならくて気が重い日が続いたが、楽しいことも幾らかあった。

例の銭湯で出しているクラフトビールの醸造所が、近所にあることに気づいたのである。覗くだけのつもりでワクチン接種帰りに寄ってみると、店の外まで麦汁の甘い香りが溢れていた。これが麦汁の香りだとすぐにわかったのは、昔ビール工場の見学で麦汁を飲ませてもらったことがあるから。吸い寄せられるように入店し、その場で飲めるとわかった瞬間注文した。ワクチン接種をしてくれた医師の「アルコールは控えめに」という言葉を思い出したのはグラスを半分ほど空けてしまったあとだった。

他にも、ドスイカを解剖させてもらったのは相当嬉しいことだった。詳しいことは別途書くけれど、寄生虫の研究をされているK先生から「ドスイカが来ましたよ」とご連絡をいただき、仕事上がりに東京イカ◯◯大学へ馳せ参じた。研究で使われる貴重なイカを触らせてもらって、使わない部分は持ち帰らせていただいた(K先生本当にありがとうございました)。

そんな楽しい余韻を雨のように流していったのが実家の猫の死である。昨日はたまたま所用で休みを取っていて、新宿を東から西へ大移動している最中に父から連絡があった。猫がいよいよやばそうだ。半年前から死ぬ死ぬ詐欺をしている17歳の老猫だが、とうとう水を飲めなくなった。そのまま実家へ向かうことにした。一分一秒、そんなにすぐ死んでしまうことはないだろうが、これを逃すと次来られるのは月曜の夜である。

父の迎えで仕事帰りの母と一緒に自宅に向かっている間も、どこか楽観視しているところがあった。それでも、真っ先に居間へ向かって丸まっている猫を撫でた。こんなに細くなってしまっても柔らかな毛並みは変わらない。しかし顔周りをくしゃくしゃとやっている時に気づいてしまった。目を閉じない。体温もない。父が家を出るときは息があったというから、ほんの40分くらいの間のことだ。死に目には会えなかった。

ひとしきり頭の中で声をかけて撫でたあと、冷やさなければ、と思った。湿度も気温も高い。前日に解剖したドスイカのことが何となく頭に浮かんだ。冷やさなければ。父がドライアイスを買ってくるまでの間、ありったけの氷と保冷剤で猫を冷やした。

生きている時はなるべく寒くないようにと猫を温めることばかり考えていたのに(そんなことをしなくても彼女は部屋中で一番暖かい場所に常に陣取っていた)、今は一生懸命冷やしているのが不思議な感じだった。

後の段取りをあらかた決めたところで、帰ることにした。夫には(冗談で)非情だと言われたが、もうしてやれることはないのだ。彼女はもうこれ以上死ぬことはないし、苦しむこともない。そして父母と私は悲しみを分かち合うような間柄ではない。

件の醸造所のカウンターになだれ込んでしこたまビールを飲み、知らない人と話し込み、カップヌードルとミニストップのパフェとスーパーの寿司を食べて寝た。

今日は全然平気だと思って普通に仕事をしていたが、突然すべてが無理になり午後は休みをもらった。そのまま眠って、猫が生き返る夢をみた。ベタだ。でも夢の中の猫は生きているのに目を開けない。「猫が生き返ったので原稿の締め切りを延ばしてください」と夢の中でメールしていた。

来週から頑張る。

 

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