CALAMARI CALAMATTE

佐野まいけるの日記

メジカの新子のはなし

先日、初めてヒラスズキという魚を食べた。アサリ、生海苔、プチトマトと一緒に吸い物という形でいただいたのだが、周りのパワフルなうまみに負けず、存在感のある白身で印象に残った。

スズキなら食べたことがあるけれど、このヒラスズキというのは川魚っぽい匂いもないし、本当にスズキの仲間なのだろうか。魚のことは詳しくないが、名前が似ているからと言って同じ科や属とは限らないことくらいは知っている。〇〇ダイなんてだいたいタイじゃないもんね。

スマホでスイスイと調べると、どうやらヒラスズキは由緒正しいスズキの一味であるらしい。それならマルスズキもいるのかなぁ、いやなぜ私は「ヒラ」から「マル」を連想したのだろう、ヒラとマル、この組み合わせはどこかで……。 ヒラソウダとマルソウダだ。前に「メジカの新子」を食べた時に調べたんだった。

メジカの新子と出会ったのは高知の居酒屋。当時、初めて高知を訪れるということで入念に(夫が)下調べをし、良さそうな店を予約して行ったのだ。 戻り鰹の時期だったので、何はなくともまずはカツオ。他にも青さのり天や鮎などを品書きから選んだのだが、注文を終える寸前にホワイトボードの「めじかしん子」という文字が目に入った。なんだかわからなかったが、酒飲みの直感が働き、すべりこみで注文した。

まず通常の品書きの他にホワイトボードがあるのなら、それは今日のおすすめに違いない。そして「めじかしん子」は「メジカ 新子」ではないだろうか。江戸前鮨で新子といえばコノシロの幼魚だが、これはメジカという魚の新子(幼魚)ということだろうか。幼魚ならばきっと旬は短い。メジカがなんなのかわからないが、いつでもあるとは限らないから食べておいたほうが良さそうだ。ということが一瞬のうちに頭に巡ったのである。

突き出しのどろめをツルツルと頂きながら、スマホで答え合わせをした結果、やはり「メジカ」の「新子」で合っていた。メジカとはマルソウダのことで、新子(幼魚)は8~9月の約2か月間しか漁獲されず、獲ったその日でないと食べられないほど足が早いため、須崎や中土佐などの一部地域以外での流通は少ない、とある。これは当たりだ。

どろめ(生シラス)の写真
突き出しのどろめ(生しらす)でまずは一杯

マルソウダの全身写真を拝もうと更に検索を続けていると、ヒラソウダというのも出てきた。この記憶が文頭のヒラスズキ・マルスズキに繋がるわけだ。 マルソウダとヒラソウダを一括りにして、ソウダガツオと呼ぶらしい。ソウダガツオはソウダガツオという種名だと思っていたけど、属名だったのか。

メジカの新子(マルソウダの幼魚)の刺身の画像
メジカの新子

そしてこれがおまちかねのメジカの新子である。身の形や繊維の感じからして多分全長20cmくらいじゃないかな。すりおろした仏手柑(酢みかん)の皮がかかっていて、果汁を絞る用の果実も添えてあった。リュウキュウ(ハスイモ)がツマとして乗っている。

味はというと、もちっとした食感できめが細かく、カツオの成魚ほど力強くはないけれど、確かにうまい。仏手柑の皮の香りと果汁の酸味が爽やかな余韻をもたらしてくれる。リュウキュウのシャキシャキ感も良い感じ。(食レポが下手すぎて伝わらない)

メジカの新子の刺身が箸でつままれている写真
仏手柑を絞った醤油でいただく

秋の訪れを知らせてくれる新物という価値、同じ頃に旬を迎える仏手柑・リュウキュウとの合わせ技で更に美味しく感じる。旅先でこういうものにたまたま巡り合えると嬉しくなっちゃうね。 注文して間もなくホワイトボードから「めじかしん子」が消されたので、やはり希少で人気なのだろう。

後から知ったことだが、須崎では毎年9月に新子祭りが開催され、メジカの新子を求めて朝から多くの人が押し寄せるという。私が食べたのはもう夕方だったが、獲れてから時間が経っていないものは更に美味しいんだろうな。是非行ってみたい。須崎と中土佐では微妙に食べ方が違うらしいのでそれも食べ比べてみたい。

ちなみにイカにも新子と呼ばれるものがある(新イカとも言う)。メジカの新子と同じく、晩夏に獲れ始めるコウイカの子供だ。最近はもう7月の終わりには指サックみたいなサイズのコウイカが吉池(御徒町の魚屋)に並び始める。甲を抜いてトムヤムクンとかに入れると可愛い。

しかし、マルイカ(ケンサキイカの地方名)はいるがヒライカは聞いたことがない。少なくとも標準和名ヒライカはいない。でもイカは眩暈がするほど地方名のバリエーションが豊かなので、どこかで密かにヒライカと呼ばれるイカがいるのかもしれない。会いたいな、平たいイカ。あるいはヒラヒラのイカ。これもまた旅に出て探す必要がありそうだ。